ことば調査報告
遠藤熊吉翁 西成瀬 西成瀬小学校の歩み
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プロジェクトの経緯
1.研究目的
 
 近代日本の国語教育の目標は、標準語を日本中に広めることであり、中央との距離の大きな地域、特に東北地方で行われた方言撲滅教育は、地域アイデンティティの否定を前提になされた教育とさえなっていた。そのような東北地方にあって、秋田県下の一山村にある西成瀬小学校では、一国語教師、遠藤熊吉の指導のもと、方言撲滅とは違った標準語獲得教育が行われていた。
 遠藤が行った標準語指導は方言を肯定しながらのものであって、当時の国語教育関係者には理想的な発音指導として考えられていた。単に標準語の習得のみにとどまらず、言語生活全般にわたるコミュニケーション能力の向上を目指したトータルな言語生活教育であって、具体的な指導の姿は「話すこと・聞くこと」を重視した現代の音声言語教育に通じる側面を既に持っていた。
 同小学校では、明治以来100年以上にわたり「ことば先生」を育成する音声教育が行われ、同村は「標準語の村」として、その地位を築いてきた。しかし実際には、言語研究者による精緻な調査は一度もなされていないのが実状である。2002年3月、同校は閉校となり、遠藤や西成瀬小学校が残した記録はすでに散逸しつつある。また、遠藤に直接教育を受けた児童たち、指導を受けた教師たちも、すでに高齢化し正確な経験や印象を記録することもままならなくなっている。
 本研究の主な目的は、以下の2点である。
1)遠藤および西成瀬小学校で実施されてきた言語教育関連の資料をディジタル記録として残し、インターネット等で公開する。
2)遠藤熊吉以降、西成瀬小学校で実施されてきたことば教育の成果を、西成瀬小学校の教師経験者や卒業生への意識調査、および方言と標準語の切り替えに関する調査によって検証する。
 本研究は、遠藤熊吉と西成瀬小学校におけることば教育の展開を見ていくことにより、地域に根ざした教育のあり方を考えるという側面を持つ。増田町(当時)では、そうした研究の意義を認め、平成17年度の予算に、90万円の調査委託費を計上した。これを、西成瀬地域センターに一括支給し、以下に示す研究グループに調査を委託した。
2.調査グループと研究の経緯
 
(1)調査グループ
 上記の目的のために、東北地方の国語教育・方言研究を専攻する研究者が集まり、下記のメンバーを調査員とする調査グループを立ち上げた(*:代表者)。
北条 常久 (秋田市立中央図書館・館長)
  今村かほる (弘前学院大学文学部・助教授)
  遠藤  仁 (宮城教育大学教育学部・助教授)
  大野 眞男 (岩手大学・副学長)
  菊地  悟 (岩手大学教育学部・教授)
  児玉  忠 (弘前大学教育学部・助教授)
  小林 初夫 (福島県相馬郡小高町立小高小学校・教諭)
  佐藤 和之 (弘前大学大学院地域社会研究科・教授)
  武田  拓 (国立仙台電波工業高等専門学校総合科学科・助教授)
  半沢  康 (福島大学人文社会学群人文学類・助教授)
  日高 水穂 (秋田大学教育文化学部・助教授)

(2)平成17年度以前の経緯
 西成瀬小学校の遠藤熊吉による標準語教育実践資料の所在情報と保存措置の緊急性については、北条、佐藤、日高をはじめとする一部の研究者間で検討が開始されていた。
 その中で、平成14年6月15〜16日には本研究メンバーが西成瀬に集まり、下記のような調査を行った。
  西成瀬関連のビデオ、テープ、資料閲覧。
  西成瀬小学校教員経験者3名(佐藤カツ氏、駒木勝一氏、長岩以久子氏)へのインタビュー。
  西成瀬小学校卒業生6名にインタビューと発音調査。
 なお、研究代表者である北条には、次のような著作がある。
  北条常久(1991)「遠藤熊吉の話し言葉教育と西成瀬小の実践から」『国語科教育』38
  北条常久(2001)「西成瀬小学校の話し言葉教育」『私学研修』157・158
 また、日高は平成14年度の卒業研究指導学生である伊藤亜希子とともに、平成14年6月に増田中学校において、ことばに関する意識調査のアンケートを実施した。その成果は以下に報告されている。
  日高水穂(2003)「地域のことばと「ことば教育」」『ことばの地域差―方言は今―』国立国語研究所
  伊藤亜希子(2003)「西成瀬小学校における「ことば教育」の成果について」平成14年度秋田大学教育文化学部卒業研究

(3)平成17年度の研究成果
 平成17年度に実施した調査研究は、以下のものである。
[1]亀田・西成瀬地区臨地調査(平成17年9月17〜19日)
  [調査員]
北条常久 今村かほる 大野眞男 菊地悟 児玉忠 佐藤和之 武田拓 半沢康 日高水穂
[調査内容とインフォーマント]
(1) 発音調査:亀田地区6名、西成瀬地区12名
(2) 方言と標準語(共通語)の使用意識調査:亀田地区6名、西成瀬地区20名
(3) 西成瀬のことば教育に関するインタビュー: 西成瀬小学校教師経験者9名、西成瀬小学校卒業生26名、遠藤熊吉縁者1名
[2]遠藤熊吉が残した実践資料のディジタル記録化
  (1) 文献目録の作成(遠藤熊吉・西成瀬関係の著書・論文・教材/遠藤熊吉蔵書)
  (2) 西成瀬小学校の話しことば教育を取り上げた映像資料のDVD化

 本ウェブページは、以上の調査の結果をふまえ、広く研究成果の公開を行うことを目的に開設した。
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