西成瀬の話しことば教育
遠藤熊吉翁 西成瀬 西成瀬小学校の歩み
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「指導内容・文献資料」からみた
戦後における西成瀬小学校の言語教育史
児玉 忠
「学校経営概要による本校言語教育」 以下に示す年表ふうの資料は、西成瀬小の跡地(現在は公民館として活用されている)に保存されていた「学校経営概要による本校言語教育」から児玉が抜粋して、あらたに再構成したものである。この「学校経営概要による本校言語教育」は、西成瀬小学校の「経営概要」、「経営要覧」、「学校要覧」、および独自に発行されたと思われる「話コトバの指導(その1)」(昭和34年3月)、「話しことばの指導(その2)」(昭和38年5月)、「話しことばの指導(その3)」(昭和39年11月)などの文献資料をもとに、平成8年度(1996年)に作成されたもののようである(作成者の氏名は記載されていない)。極めて限られたかつかなり概括的な記録をもとに作成されたものであったためか、ならずしも戦後における西成瀬小学校の言語教育の全体像およびその詳細を明らかにできていないうらみがある。しかしながら、それぞれの時期にどのような指導がなされたか、それがその後どう受け継がれ改変されていったかなどについて、そのほんの一端はかいま見ることができる。
 ところで、元資料である「学校経営概要による本校言語教育」は、戦後の西成瀬小学校の言語教育のあゆみを年表形式でまとめようとする意図で作成されたものである。そこからうかがえるのは、戦後の西成瀬小学校の言語教育が、たんに方言矯正のための「共通語教育」のみをめざしてきたのではなく、そうした「共通語教育」を中核としながらも、さまざまな場や機会をとらえて子どもたちの言語能力や言語生活の質的な高まりを期待して展開する「トータルな音声言語教育」を志向していたことである。そして、元資料からはそれを「日常的に継続可能な指導システム」として設計・構築し、そのシステムに対して不断に改善・改良を加えようとしてきたこともうかがえる。なかでも「ことば先生」の検定システムは、継続的に実施されてきた指導のなかでも、全国的にみてかなり特徴的なものと言っていいだろう。
 ひるがえって、戦前の言語教育、なかでも遠藤熊吉氏による指導は、教え子たちのインタビューから推察してみるかぎり、主として遠藤氏個人がもつ独自の知識や技能に依拠していた部分が大きかったようだ。教え子の方に回想によれば、当時の言語教育は遠藤氏ひとりが全てのクラスに出向いて授業の一部を担当する、あるいは授業以外の場面でも遠藤氏個人がたえず子どもたちと接しながら発音矯正をするといったものであったという。その点、戦前・戦後を比較すれば、戦後の西成瀬小学校は遠藤氏の没後はとくに、個人の力ではなく組織の力で継続的に言語教育を展開しようとしている点、そして指導内容に関しては、発音矯正を中核としながらも、子どもの言語能力や学校における言語生活をみすえつつ網羅的・体系的なものにしようとしている点などに特徴を見いだすことができるだろう。
 なお、ホームページ用に再構成するにあたっては、限定的かつ断片的にまとめられた元資料からさらに「指導内容」、および「文献資料」に絞って抜粋したこと、元資料が空白である年度に関してはこのホームページでも空白にしていることお断りしておく。今後、資料等が見つかり次第、空白部分が必要に応じて埋められていく予定になっている。
年度 「学校経営概要」などにみられる「指導内容」
記録上あるいは現存する独自の「文献資料」
昭和32年度
(1957年度)
◎「言語教育」として位置づけられ、教育課程に意図的計画的に組み込まれる。
 ○発音練習会…朝の時間帯
 ○ことば反省…学級日誌で
 ○ことば黒板
 ○発表会…月1回(朗読・対話・独話)
昭和33年度
(1958年度)
 
昭和34年度
(1959年度)
「話コトバの指導(その1)」(昭和34年3月発行)
  …言語教育の体系化
昭和35年度
(1960年度)
 ○学期1回以上の発表会の設定
 ○コトバ集め箱
 ○コトバ週間
 ○ことば委員会
昭和36年度
(1961年度)
「職員研修資料 濁音語いあつめ」
(「昭和36年以降児童のあつめたものを集録」とある)
昭和37年度
(1962年度)
 
昭和38年度
(1963年度)
◎この年度より「話しことばの指導」と表記するようになる。
 ○ことば週間の実施
 ○職員研修
 ○発音指導
 ○放送(校内外)と連携して進める
「話しことばの指導(その2)」(昭和38年5月発行)
昭和39年度
(1964年度)
 ○発音練習
 ○ことば週間
 ○コトバ黒板
 ○校内放送の聴取
 ○職員研修
 ○学級で(朗読会、発表会、発音練習など)
「話しことばの指導(その3)」(昭和39年11月発行)
昭和40年度
(1965年度)
 
昭和41年度
(1966年度)
話しことば教育の全体構造が示され、「国語科指導」、「各教科」、「生活化」におけるそれぞれの指導目標が示される。くわえて、「とりたて指導」に関する内容として、「にっぽんご1・2・3・5」(麦書房)および、「単語の学習」・「文法の学習」を用いたカリキュラムが示される。
「にっぽんご1〜5」は、明星学園国語部及び教育科学研究所と秋田国語部会による。
「単語の学習」「文法の学習」は、「にっぽんご」シリーズをもとに西成瀬小で作成したもの(?)
昭和42年度
(1967年度)
◎「ことば先生」が創設される。
【実施方法】
4年生以上の希望者、あるいは学級推薦者から選考する。
選考は、教師代表と、子供のことば委員があたる。
選考はことばに関する実績(知識、技能、態度など)についてテストする。
合格者には免許状とバッヂを与える。バッヂはどこでもつける。免許状とバッヂに一連番号をつける。
受験希望者は、「ことば先生」の推薦か応援者が必要である。推薦、応援者は合格後も責任をもつ。
合格者は、その実践が悪い場合は(他の子の点検などによって)免許状を返戻しなければならない。
4年生以上全員が合格者になることを目標とする。
 (以下略)
ことば先生免許状 ことば先生バッジ
「話しことば指導の一施設としての『ことば先生』関係綴」
(昭和42年12月〜)
昭和43年度
(1968年度)
 
昭和44年度
(1969年度)
 
昭和45年度
(1970年度)
 
昭和46年度
(1971年度)
 
昭和47年度
(1972年度)
 
昭和48年度
(1973年度)
 
昭和49年度
(1974年度)
 
昭和50年度
(1975年度)
◎「ことば集会」が創設される。
 ○職員研修
 ○ことば委員会の活動
 ○ことば先生の検定と免許状の交付
 ○ことば集会
  ・毎週土曜日2校時をあてる。
  ・全校または低、高学年にわかれて行う。
  ・ことば委員会の子供が司会し、ことば先生が協力する。
  ・発音練習、発表会(朗読、対話、独話、会話)を行う。
昭和51年度
(1976年度)
 
昭和52年度
(1977年度)
 
昭和53年度
(1978年度)
 
昭和54年度
(1979年度)
 
昭和55年度
(1980年度)
 
昭和56年度
(1981年度)
 
昭和57年度
(1982年度)
◎遠藤熊吉の「言語教育の鉄則」を「学校経営」などに明記した。
 ○ことば委員会活動による実践
  ・朝読み強調週間
  ・発音練習会
 ○ことば集会活動による実践
  ・ことば発表会(朗読、対話、独話、会話など)
 ○ことば先生の検定と免許状の交付
 ○職員研修
昭和58年度
(1983年度)
 
昭和59年度
(1984年度)
「ことば検定」のテスト問題(昭和59年〜)
昭和60年度
(1985年度)
 
昭和61年度
(1986年度)
 
昭和62年度
(1987年度)
 ○言語環境
   ・方言の理解と是正
   ・共通語の会話
   ・あいさつ運動
   ・校内の貼りもの、板書のきれいな表記
   ・ノート類、印刷物の正しい表記
  ○ことば指導
   ・ことば勉強会
   ・発音練習の会
   ・朗読練習
   ・独話、対話
   ・「ことば先生」の検定
   ・朝読み、読書
  ○表現活動
   ・学校、生活の場での自主的発言と自己活動
   ・朗読発表会
   ・独話、対話の発表会
   ・詩、作文の創作活動と発表
   ・集会、諸行事の発表
昭和63年度
(1988年度)
 
平成元年度
(1989年度)
 ○ことば指導部による推進
  ・朝読み
  ・読書週間
  ・発音練習日
  ・ことば先生勉強会
 ○ことば勉強会、集会活動による実践
  ・詩、作文の発表会
  ・独話会
  ・対話会
  ・夏・冬休み発表会
 ○ことば検定及び免許状交付
 ○職員研修
平成2年度
(1990年度)
 
平成3年度
(1991年度)
 
平成4年度
(1992年度)
 
平成5年度
(1993年度)
 
平成6年度
(1994年度)
◎「ことば検定」の見直しをはかる。(平成8年度まで)
  ○検定基準の見直し
  ○運営の見直し
平成7年度
(1995年度)
◎「ことば勉強会」の見直しをはかる。
  ○発表形式の見直し
  ○運営の見直し
平成8年度
(1996年度)
 
児玉 忠(こだま ただし)
 弘前大学教育学部助教授。国語教育学を専攻。今回の調査では、西成瀬小学校の旧教員と卒業生に対するインタビューの質問項目を設定し、聞き取り調査と現存する西成瀬小学校のことば教育関係の教材・文献から、教授法の検証を行う。
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