ことば調査報告
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発音調査
大野眞男
 西成瀬小学校のことば教育の成果を検証するために、発音に関する調査を行った。東北方言で特徴的な音声が現れる項目を中心に、音韻の区別に関する43項目、名詞のアクセントに関する30項目、動詞の活用形のアクセントに関する20項目(4つの動詞について活用形5種類)を選定した。西成瀬小学校卒業生(55〜80歳)に調査するとともに、比較のために、西成瀬小学校以外の小学校の卒業生(隣接する亀田地区の出身在住者:57〜71歳)にも同様の調査をした。
調査項目
音声調査 調査票[PDF/16KB]
 イ・エの区別に関する6項目、シ・ス、チ・ツ、ジ・ズの区別に関する10項目、語中のカ・タ行音の有声化と本来の濁音の鼻音性に関する7項目、セ・ゼの音価に関する5項目、ハ行音の音価に関する5項目、キ・クの音価に関する2項目、ai・aeの融合音とエ列音を比較する4項目、特殊拍の長さに関する4項目を調査する。これら43項目について、なぞなぞ式の質問に回答する形で該当の単語を発音してもらい、次に調査項目リストを見ながら該当の単語を読み上げてもらった。
名詞アクセント調査 調査票[PDF/9KB]
 2拍名詞の5つの類別語彙から選定した20項目と秋田方言で標準語(東京)アクセントとは異なる音調が現れる3拍名詞10項目を調査する。
動詞活用形アクセント調査 調査票[PDF/9KB]
 「着る」「見る」「来る」「する」の4つの動詞について、終止形(着る)、否定形(着ない)、過去形(着た)、仮定形(着れば)、命令形(着ろ)の5種類の活用形のアクセントを調査する。秋田方言では、終止形以外の活用形で、標準語(東京)アクセントとは異なった音調が現れる。これらの動詞活用形を含む1文を読み上げ、方言的な文と標準語的な文とでアクセントの切り替えが起きるかどうかを調べる。
回答者の内訳
(男性話者) 50代 60代 70代 80代 合計 調査日
 西成瀬地区
 亀田地区
1
2
4
1
4
1
1
0
10
4
 2005.9.18-19
 2005.9.17
他に、西成瀬地区50代女性1名、60代女性1名、亀田地区60代女性2名に調査を行った。以下では、回答者数の多い男性話者のデータのみを分析の対象とする。
調査結果
 「イ」と「エ」の区別
図1−1 西成瀬「イ(息)」と「エ(駅)」
  図1−2 亀田「イ(息)」と「エ(駅)」
  [解説]
 東北方言の特徴として、母音単独での「イ」と「エ」の区別がないことが知られており、増田町においても同様である。図1−1及び2は、旧増田町内の西成瀬地区(80歳から55歳までの男性10名)及び亀田地区(71歳から57歳までの男性4名)に、「テレビのアナウンサーになったつもりで発音してください。」とお願いして得た「息」と「駅」のデータから、「イ」と「エ」の母音部分をホルマント分析し、F1×F2で示したものである(分析には『音声録聞見』を用いた)。これらに加えて、男性アナウンサーによる標準語音声の「イ」及び「エ」を参考に示した(注)。ホルマントは音環境によっても個人によってもばらつきがあるが、両地区とも概ね「イ」と「エ」を区別しようとする傾向があり、その傾向は西成瀬地区においてやや顕著に観察される。
(注)標準語音声のデータは、今石元久編『音声研究入門』(2005年・和泉書院)による。以下、同じ。
 「シ」と「ス」の区別
図2−1 西成瀬「シ(四)」と「ス(酢)」
  図2−2 亀田「シ(四)」と「ス(酢)」
  [解説]
 東北方言の特徴として、いわゆるズーズー弁として「シ」と「ス」の区別がないことが知られており、増田町においても同様である。図2−1及び2は、旧増田町内の西成瀬地区(10名)及び亀田地区(4名)の男性に、「テレビのアナウンサーになったつもりで発音してください。」とお願いして得た「四」と「酢」のデータの母音部分をホルマント分析し、F1×F2で示したものである。これらに加えて、男性アナウンサーによる標準語音声の「イ」及び「ウ」を参考に示した。両地区とも概ね「シ」と「ス」を区別しようとする傾向があり、その傾向は西成瀬地区においてやや顕著に観察される。
 「チ」と「ツ」の区別
図3−1 西成瀬「チ(口)」と「ツ(靴)」
  図3−2 亀田「チ(口)」と「ツ(靴)」
  [解説]
 東北方言の特徴として、いわゆるズーズー弁として「チ」と「ツ」の区別がないことが知られており、増田町においても同様である。図3−1及び2は、旧増田町内の西成瀬地区(10名)及び亀田地区(4名)の男性に、「テレビのアナウンサーになったつもりで発音してください。」とお願いして得た「口」と「靴」のデータから、「チ」と「ツ」の母音部分をホルマント分析し、F1×F2で示したものである。これらに加えて、男性アナウンサーによる標準語音声の「イ」及び「ウ」を参考に示した。両地区とも概ね「チ」と「ツ」を区別しようとする傾向があり、その傾向は西成瀬地区においてやや顕著に観察される。
 「ジ」と「ズ」の区別
図4−1 西成瀬「ジ(知事)」と「ズ(地図)」
  図4−2 亀田「ジ(知事)」と「ズ(地図)」
  [解説]
 東北方言の特徴として、いわゆるズーズー弁として「ジ」と「ズ」の区別がないことが知られており、増田町においても同様である。図4−1及び2は、旧増田町内の西成瀬地区(10名)及び亀田地区(4名)の男性に、「テレビのアナウンサーになったつもりで発音してください。」とお願いして得た「知事」と「地図」のデータから、「ジ」と「ズ」の母音部分をホルマント分析し、F1×F2で示したものである。これらに加えて、男性アナウンサーによる標準語音声の「イ」及び「ウ」を参考に示した。両地区とも概ね「ジ」と「ズ」を区別しようとする傾向があり、その傾向は西成瀬地区においてやや顕著に観察される。
大野 眞男(おおの まきお)
岩手大学。日本語学、言語学・音声学、社会言語学を専攻。
今回の調査では、専門の音声学の見地から、西成瀬小学校出身者の音声の分析を行う。
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